ハロルド・ミヤモト氏ハロルド・ミヤモトのスノーボードコラム集

「この間さぁ、金城武に似てる男に声掛けられちゃった。もうやれてラッキー って感じ」と、知り合いのお姉ちゃんが言ってた。生物にオスとメスと言う形態(有性生殖)が発生して6億年。ついに女が「やれてラッキー 時代」に突入した。

すべてがお気軽、コンビニ感覚。男も「やりたい下心」を隠してアッシー君(死語)したり、クリスマスイブに東京ベイヒルトンで食事してプラダのバッグを贈る必要はまったく無い。「エッチなんて会話の延長みたいなもん」なのだ。前置きが長くなったが、どんどんライトな時代になると、スノーボードもザウスに代表される都市型お手軽がこれからの中心となりそうである。

むかしザウスがオープンしたころ、そこに集うスキーヤーには一種の後ろめたさがつきまとっていた。「別に来たくなかったんだけど誘われちゃって」とか、「滑る気はないんだけど話の種にね」などと、お手軽スキーに対して言い訳を用意してから滑っている感じだ。

その当時ザウスへ行く行為は、例えば「ナンパと言う努力をしないで、てっとり早くソープランドに駆け込む」ようなもので、そう言った安直さをよしとしない社会通念、気概といったものが、みんなの心のなかにあったように思う。

裏を返せば、本来スノーボードやスキーに行くことは、大変な事だ。滑りのうまさ以前に、ゲレンデでのファッション、流行への気配り、アフターの過ごし方から、道中でチェーンを手際よく付けるだとか、夜中渋滞のなかをぶっ通しで運転するタフさとか、リフト乗り場でいかに早く前に進むかなど膨大なノウハウと努力を必要とした。

生半可な気持ちでは決してできるものではなかった。

そんなにまで苦労をしてゲレンデに通っていたのは、それだけの努力をすればどんな男でも収入、学歴、容姿を問わず確実に女にもてたからである。また女もそう言った男の価値を認めていた。女性の立場から見れば、普段街で声かけられてナンパされるのはプライドが許さないがゲレンデなら「ロマンよねっ」ってことになる。言い訳が出来るのである。

これからの時代はお気軽に楽しむことに何の言い訳も必要ない。「ちょっとザウスへ」でOKである。これは一見おいしい時代のようであるが、そうばかりとは言いきれない。

例えば、世の中では不景気だ何だと言ってるが、これは女性が「コンビニ感覚でさせる」事に一因があると思う。簡単に出来るなら高価なプレゼントをしたり、「美人と結婚してやりまくる」為に努力して関取やプロスポーツ選手になる必要はない。

「今はもてないが、勉強して東大法学部から大蔵省に入って銀座で見返してやる」と言う野心もわかないので勉強する奴も減るだろう。無駄金を使わないから経済は回らないし、努力しなくなるので海外のハングリーで優秀な奴らにやられっぱなしになる。

「やりたいのにやれない」「滑りたいけど大変だ」ぐらいで、ザウスに行くにしても言い訳して行くぐらいが、本来はちょうどいいと思う。

お茶の間ボーディング(Transworld Snowboarding誌98'10月号)掲載