ハロルド・ミヤモト氏ハロルド・ミヤモトのスノーボードコラム集

ある朝、新聞の折り込みチラシを見たら、なんとスノーボードが半額。しかもそのボードは自分が他のお店で定価で買ったのと同じやないか。いったい、どないなっとるねん!なんていう経験や、または話を聞いたことがあると思う。しかし頭に来る前に、ちょっと冷静になって考えて欲しい。今回は広告の落とし穴についての話や。

ええカッコしいが多いといわれる関東では「銀座の三越で定価で買った」というのがカッコイイとされる場合もあるようだけれども、関西では「この定価○万円のやつを何割引で買った」などといかに自分が買い物上手かをアピールする事にカッコよさを求める傾向にある。

ごくまれに、「おう、この店で一番高いもんくれや」とか、「値引きせんでもええ、定価で買うてやる」などという買い方をする関西人もいるようだけれども、本音で言えば、関東、関西に限らず同じ物なら1円でも安く買いたいのが普通やと思う。

また営業職の人なんかは、とりあえず幾らでもいいから値引きして貰わないと、商談に負けたような気分になる人もいるし、大阪の日本橋(注1)なんかでは、商品を買うことよりも店員さんと駆け引きして値切る行為が最大の目的(ストレス解消)になっている人も見かける。

前振りが長くなってしまったが、そういう「私だけ安く買いたい!」と言う人の心理をついて様々な広告がうたれる。もちろんお店が利益を少なくして、実際いいものを安く買えるならこれに越したことはないのだが、中には消費者をだますような広告や法律に触れているようなものもあるので注意が必要や。

たとえば、新聞やチラシの広告の表示。
「フォーラスノーボード(仮名)、バインディングセットでメーカー希望小売価格112,000円の所、10本に限り6割引の44,800円」とチラシに広告が出ているとしよう。問題は、本当に普通は112,000円の価値があるボードなのかどうかという点にある。

例としては、フォーラというスノーボードはメーカー希望小売価格が特になくて(注2)店が勝手に価格を設定して、高いボードに見せかけていたり、そのフォーラというブランド自体、実はそのお店のオリジナルブランドで、値引きすることを前提にあらかじめ高い価格をつけているケースもある。

またボードは有名なブランドのものであっても、セットされるバインディングには無名のチープな商品をセットして安く見せかける方法もある。もっとひどくなると「サムススノーボード(仮名)、バインディング付き○割引」とだけ書いて、バインデイングまでそのサムスのブランドであると錯覚させるような広告も見たことがある。

特にバインディングは見た目が同じに見えても、安かろう悪かろうというような商品も非常に多い。そしてこれをセットする事によって他のお店よりも安いイメージを演出するのだ。バインディングがボードのブランドと違ったり、聞いたことの無いものやSNOWINGのカタログ号にも載っていないようなら一応疑ってみる必要があるやろう。

他にもやたらと高い希望小売価格を付けたオリジナルのボードケースやバッグ、グローブなんかを付けてセット価格を釣り上げる場合もある。TVの通販じゃないんだから、とツッコミの一つもを入れたくなるが、これはさもボードを割引しているように見せかけて、実は引いているのは元々安く仕入れたオマケの方なのだ。

こんな風に希望小売価格の根拠の無いもの引き合いに出して、安くしているように見せかけるのは違法の場合があるけれども、すれすれの方法として「当店通常○万円のところ、さらに40%引き」とかいうのもある。これも「当店通常の価格」が適正なのか、最終的に割り引きをするために故意に高い価格を付けているのかは不明なので、買う場合は注意が必要や。

たとえば洋服とかのバーゲンにも言えることやが、1点物の商品が安くなっている場合は本当に残品の処分だろうけれども、同じ商品がいっぱいあって安くなっている場合はバーゲン用に用意された商品であるケースが多い。これらは初めから「当店通常価格」で売ることなど考えていないので、希望小売価格があっても当てにはならない。商品と価格を見てよければ買えばいいが、「値引きしているので、お買い得じゃないか」と思って買うのはどうかと思う。

小売店も競争しているわけだからある程度はしかたがない事かも知れないが、やりすぎると、公正取引を定めた法律の二重価格表示の条項に違反する事になる(注3)。

次は不当表示についてやが、みんなもよく街で「閉店セール」なるものをよく見かけると思う。「あーそうか、この店無くなるのか」と思っていてもいつまでたっても閉店セールのままだったり、セールが終わると何食わぬ顔でまた営業していたりする事もある。中には「改装のため2日間だけ閉店するのでそのためのセールだ」などと説明するお店もあるが(注4)、これもあたかも在庫処分のための廉価販売を装った違法な表示として禁止されている。

また、日本の正規代理店から仕入れた商品と、どこかから安く仕入れてきた並行輸入の商品を混ぜて店頭に並べているお店もある。並行輸入品を扱うことは違法でもなんでもないが、当然日本の代理店のサービスが受けられなかったりするわけで、そういったことを明記しなかったり、十分に説明しないで売るのは法律に違反する。以前友人が、あるお店でボードを注文したら店頭に並べてあるのは正規輸入品なのに、裏から並行物を出してきてすり替えて買わされそうになった事があったと言う。そしてそのことを指摘すると「別にうちのお店でちゃんと保証はするから問題無いだろう!」と言うておったらしいが、消費者を騙すのも大概にしろと言いたい。

他には、チラシに掲載された商品が、実際店頭には無い場合もある。何か物流の手違いで本当に遅れたりしているなら話はわかるが、朝一番に店に行ったらすでに完売していたなどというのは、明らかに囮広告だ。

はっきり言って、最近は売っている価格は何処も極端に変わらない様に思う。むしろ広告やちらしを使って、刺激的な言葉での誘っていることが多い。でもこんな事ばかりしていると結局消費者が希望小売価格に不信感を持って買い控えたりして、最後はお店やメーカーと言った供給者側自身の首を絞めるような事になりかねないと思う。正確な表示によって消費者に情報を出すことが重要ではないやろか。

注1
東京の秋葉原のような電気街。にっぽんばしではなく、にほんばし。そういえば余談だが、先日うちの大阪事務所のパソコンのプリンターが壊れたので日本橋に買いに行ったところ、あるお店の従業員が、「何探してるのん」と聞いてきた。 「いや、ちょっとプリンター見てるだけです」 「他はもう見てきたんか?なんぼやった。それより安うするで」 「はぁ、それで幾らになるんですか?」と言ったら、 「おまえ何、きどってんねん。もっとお店の人と仲良うせんと、安うしてもらえんで!」と言われた。 もちろん普段は温厚な僕だが、このときは「おのれこそ、客に対して何ぬかしとるんじゃ!」と関西弁でブチ切れてしまった。色々あったが、これで従業員のハートをつかんで安くして貰ったのは言うまでもない。

注2
オープンプライスと呼ばれる。「お店にいくらで納品する」ということだけ決めていて希望小売価格を設定しない。電化製品の型落ちや、スポーツ用品やパソコン等で値引きによるイメージダウンを防ぐ場合に使われたりする。希望小売価格が無いので「希望小売価格より○○%オフ」等とうたえなくなる。しかしカタログには載らないだけで定価らしき物は自ずと決まっているようだ。

注3
メーカー希望小売価格と実際の販売価格に開きがありすぎる場合、公正な商取引を阻害し消費者に不利益をもたらす可能性があるからだ。消費者の保護を第一の目的としている。

注4
ご存知の方も多いと思うが、これに似た話で深夜営業のお店が近隣の住民との話し合いで夜の12時以降は営業しないと約束しながらも深夜まで営業し、住民がクレームを付けると「12時に閉めて、12時1分からまた店を開けてるんだ」と言ったり、大規模店舗法で大型店が出店できない場所に大きな店舗を建てて、その真ん中を植木で仕切って入り口を別々にして2つのお店として法律を逃れたりしている事が今問題になっている。客商売が後ろ指刺されるようなことしてどうすんねん!

GTM(SNOWing誌99'11月号)掲載