ハロルド・ミヤモト氏ハロルド・ミヤモトのスノーボードコラム集

「新雪のバックカントリー。木々の間をリズミカルに滑り降りた彼は、倒木の上を軽やかにスライドすると、半ば岩肌が露出した巨大なクリフへごく自然にアプローチした。オーソドックスなトゥイークのまま空にすいこまれる。山が、雪が、空が、彼を取り囲むすべてが癒合し一体化した。時間が止まった…。」

なんてね、こんな感じか。しかしプロスノーボーダーとりわけトッププロの滑り、芸術性は文章ではとても表現できないぐらい凄い。

さて、それほど凄い憧れのプロスノーボーダーではあるんだけれども、一般的にはかなりヤクザな商売とのイメージがある。嘘だと思うなら家に帰って家族に「俺はプロスノーボーダーになる」と言ってみればいい。たとえば君が学生なら親から「そんな子に育てた覚えはない」とか、「それだけは止めてくれ。代わりに車を買ってやるから」とか言われ、婆さんは近所の祈祷師に相談に行って「孫には狐がついておる」なんて言われたりと、てんやわんやだ。もし君が社会人で妻帯者なら、仲人は飛んでくるわ、子供はびーびー泣くわ、かみさんは浮気するわ、実家の母ちゃんはみのもんたに相談するわで上を下への大騒ぎになるのは目に見えている。

これは、ひとえに「スノーボードは遊び」という観点から、遊びを商売にする事はすなわち遊び人だ。けしからん。と言った古い社会通念みたいなものがあるからではないだろうか。あるいは嫉妬もあるかもしれない。わかりやすい例としては、農家の人が作物を作ると言ったような生産的な事が労働であり、「労働は辛くなくてはいけない」みたいな共通認識があるからだと思う。

遊びで商売と言えば、人気テレビ番組に「松方弘樹 世界を釣る!」と言うのがある。ご存じの方も多いと思うが、松方弘樹が友人の梅宮辰夫なんかを連れて釣りに行く番組だ。実は好きでよく見ているのだが、この番組が他の釣り番組(例えば「千夜釣行」)と決定的に違う点は、他の釣り番組が、「魚を釣る事」に目的が置かれているのに対して、この番組は「松方弘樹が友人と趣味の釣りに行って遊んでいる事」が目的なのだ。その証拠に松方弘樹は、私の知る限り番組でほとんど魚を釣っていない。

以前たけしが何かの番組で、「好きなことして稼げていい」とか言ってうらやましがっていたが、これなんかも世間では松方弘樹が本業の「役者」と言う生産的な仕事をしないで、遊びの「釣り」をして金を稼いでいるとんでもない事のように捉えられている。

もし彼が釣りが嫌いでしかたなしにやっているなら(あのうれしそうな顔は絶対そんなこと無いが)「タレントさんもたいへんね」になるのだが、おかしなもんだ。これらの理屈も職業としてのスノーボーダーへの反感と根っこは同じだと思う。

さしずめ松方弘樹は遊び人の金さんを地でいくといった感じか。同様のポジションに大橋巨泉もあげておこう。

また、「好きなことをしたい」為にSMAPをやめてオートレーサーになった森君も、好きで非生産的な事をしていると言う点ではプロスノーボーダーや松方弘樹と一緒だが、世間の風あたりが無いと言うか、逆に「良かったね夢がかなえられて」みたいに賞賛されるのは、SMAPがオートレーサーよりもっとヤクザな商売だったからだと思う。

お茶の間ボーディング(Transworld Snowboarding誌98'09月号)掲載