ハロルド・ミヤモト氏ハロルド・ミヤモトのスノーボードコラム集

その店は住宅街の一角にあった。まわりに駐車場は無い。しかたなく店の向かい側の、大きな家の塀に沿って車を停めた。

冬の平日の午後、舗装された細いアスファルトの路は、所々黒くすすけた雪が残っていた。

私は小さなセカンドバックを小脇に抱え、外から恐る恐る店内を眺めた。10坪ぐらいの小さな店だった。

向かって左側にスノーボードが4,5本並んでいる。その上は棚になっていて、ブーツとバインディングが無造作に置かれていた。店員の姿は…見えない。

何度か迷ったのち、勇気を振り絞ってドアを押し店内に入ると、ドアの右脇、ちょうど表からは死角になっている部分からおもむろに声が掛かった。

「いらっしゃい」

急に言われて、しどろもどろになっていると、その男(後でその店のオーナーと分かるのだが…)が続けた。

「うちはな、定価販売や。安いのが欲しかったらここから100メートルぐらい行ったところにデッカイ店があるからそこで買え!」

驚いた。驚いてその人を見てまた驚いた。真っ黒い顔に茶髪というより金色の髪の毛。太いピアスを幾つも付けて、面構えも凶悪そうだ。

「あっ、いや、その、ボードが欲しいんで探しているんですが…」

体の中をアドレナリンが巡り、心の中では早く逃げ出せと言っていた。それでもそんな台詞が出たのは、『怒らせると怖そうだ。当たり障りのない話をして帰ろう』という計算があったからかもしれない。

「兄ちゃん、うちでボード欲しいんか?。なら、俺に命は預けられるか?」

「…はぁ?」

「俺に命を預けられるンかと聞いとんのじゃ!!」

「えっ、はぁ、いえ・・ハイ、だ、だ大丈夫です。たぶん大丈夫です」

口が滑ったとはこのことだろう。

「よーし。よう言うた。それじゃあなぁ、君は、この板や。これがいい。これを売ってやる」

「えっ、あの、他の板は…。こっちの板とか…」

「お前の板はこの板やと言うとるじゃろうが、何が不満なんじゃ!」

「ひぇ〜。かっ、買います。買いますから勘弁してください…」


さて前回に引き続き、スノーボードの正しい選び方についてだが、今回は実践編なので、まずお店を選ぶ場合の注意点を述べたい。

前出の物語はフィクションだが、これにかなり近い店を私は何軒か知っている。でも、こう言った店が悪いとは言いきれない。個人がお店に何を求めるのか、価格なのか、ノウハウなのか、友達なのかはそれぞれ違うわけだし、こっちの人にはサイコーでも、違う人には全然駄目だと言うことになりかねない。

まだ特定のお店を決めていない人は、どこのお店で買うかは大変重要な問題だ。お店選びを失敗すれば、ボードはうまくならないわ、やたらとカネはかかるわ、変な男と知り合って人生ぼろぼろになるわと、ロクな事にはならない。

まずは、色々な雑誌に載っているショップガイドをチェックして、その内容のウラを読む事をお勧めする(最初に断って置きますがあくまで洒落です。特定のお店を中傷するものではありませんので悪しからず)。

まずお店の紹介写真にかわいい女の子を使い、楽しそうな雰囲気を演出しているところがあるが、これは顧客のターゲットをナンパな男の子に絞っていると読める。女の子がいっぱいいると思って店に行ったら、同じようなヨコシマな考えの男ばっかりだったという事もあるだろう。女性と知り合う事も目的の1つにしている人は、写真よりむしろ店を訪問したら女性向けのサイズの板やウエアがどれだけ充実しているかをチェックする必要がある。

将来プロを目指したり、プロから色々教えて貰ったり、お近づきになりたい人は、プロの所属しているショップに出入りするのもいい。ただし看板にプロショップと書きながら、所属プロがいない店もある。何というプロがチームにいるのか明記していないとか、JSBA公認ショップに加盟していないお店なんかは要注意だ。またプロでも何でもないのにオーナーが自分の顔写真やスナップを雑誌に載せているお店もあるが、紛らわしい。何か勘違いしているだけで悪気はないんだろうが、お店選び初心者は注意したい。

常にベストの状態のボードに乗りたいとか、アルペンレースをやっているとか、とにかくよく道具を壊すなんていう人は、メンテナンスの充実した店を探すのも賢いやり方だ。たいていはメーカー保証もあるが、やはりちょっとしたメンテナンスやチューンナップがすぐその場でできる店は心強い。この場合メンテナンスに不可欠のチューンナップマシーンの有無が決め手だ。どうせなら、ストーングラインドマシーン(サンドクロスではなく、グラインドストーンで削るマシン。固い番手のソールも削れる)まであればベスト。またレーシングボードの品揃えが充実している店は総じてチューンナップやメンテナンスのレベルが高いようだ。

かっこいい店員さんのいる店で、ハードコア気分を味わいたい人はどうか?見た目はハードコアな店員さんでも、少し以前の免許証に写っている写真は普通の人だったりする事がある。いわゆる、にわかハードコアだ。さりげなくチェックしたい。また、ハードコアなんだろうけど、見た目ばかり追いかけて脳味噌に血が回ってないような店員さんもいる。たとえば、ある板について、何故この板がいいのか聞いてみて「なんつぅーか、ちょー調子いいんだよね、とにかく」などと、具体的に説明できないようなバカがいる店はさけたい。

とにかくお店選びはある意味ギア選びより重要。ここを間違えなければスノーボード選びは80%終わったと言えるだろう。

まだまだつづく。

お茶の間ボーディング(Transworld Snowboarding誌99'09月号)掲載