ハロルド・ミヤモト氏ハロルド・ミヤモトのスノーボードコラム集

アイデンティティなる言葉をよく耳にする。「俺のアイデンティティはロックだぜ」とか、「この新型車のアイデンティティはズバリ環境です」などと使われているが、「言葉の意味は?」と聞かれると即座に答えられないんちゃうかな。
その、わりと曖昧に使っているアイデンティティなるものの危機が今スノーボードに迫っているといわれているが…??

アイデンティティを手元の辞書で引くと、”[identity] 人格における同一性。ある人の一貫性がなりたち、それが時間的・空間的に他者や共同体にも認められていること。自己同一性。主体性。”とある。また自尊心、存在意義とも訳される。何かようわからんが、簡単に言えば「君は何者や?」という質問に対する答えの事をさすのやそうである。

もし君が誰かから「失礼ですけど、あんた何者ですか?」と聞かれれば、どう答えるやろう。ケースに応じても違うけど、「ぷーたろうです」とか「阪神ファンや」とか「俺はスノーボーダーだっちゅーの」、「マゾです」なんていう具合にいくつか出ると思う。一貫性があって自分も周りの人もそう思っている、それがアイデンティティという訳や。「俺は大酒のみだ」というても、たまたま一回だけ大酒を飲んでぶっ倒れただけではアイデンティティとはいえないし、自分でいくら「私って美人でしょ!」と自信を持って公言していても、周囲の賛同を全く得られないならば、単に「自分の事を美人と勘違いしている人」であって「美人である」とのアイデンティティは成立しない。さらに、一見看護婦さんのようでも「何者や?」の問いに対して「私はキシリシュのキャンペーンガール」(注1)と答えて周囲の認知を得られれば、その人のアイデンティティは「キシリシュのキャンペーンガール」ということになる。

さて、スノーボードのアイデンティティは何かといえば、単純に「スノーボードである」ということ。「君は何者や?」、「私はスノーボードである」でOK。いや、正確にはOKだったというべきだ。と言うのも、長野オリンピックで正式に「スノーボードはスキーの一種目(注2)」とカテゴライズされたため、アイデンティティ、同一性が保てなくなったのだ。ある人は「スノーボードはスノーボード。スキーとは違うものだ」というし、またある人は「スノーボードはスキーの一種でしょ」という。これがもし人間やったら、スノーボード君はアイデンティティ・クライシスと言う精神病になりかねない。自分自身が何者なのかわからなくなるのだ。

あわれスノーボード君。ずっと今まで「自分はスノーボードだ」と思っていたのにある日突然、「今までは内緒にしていたが、お前は実はスキーなんだ」といわれた。母親に「お前は赤ん坊の頃、河原に捨ててあったのを拾ったんだよ」とカミングアウトされたようなもんや。(注3)ガビーンである。

さて、今後スノーボード君をどうすればいいかだが、何もしないでうやむやにするのが一番まずい。このような精神的に不安定な状態が続くと心身症や分裂症などの合併症を併発する恐れも出てくるだろう。「ビリーミリガン状態」(注4)になる前に早く白黒つけさせたるべきや。

まず考えられるのが、オリンピックでやってしまった以上しようがないので、スキーであると認めて新たなアイデンティティを確立する手だ。

立派なジェダイの騎士でありながら、今までの正義や社会規範に疑問を持っていたスターウォーズのアナキン・スカイウォーカー。一度ダークサイド・オブ・ザ・フォースを使ってしまった彼は、逆に「おいらは悪者さ」と開き直ってダースベイダーとして銀河帝国軍に身を投じた。心理学的に言えば反抗することによって新らたなアイデンティティを確立し、自己の精神状態を修復したといえる。これなんかはいい例やろう。

もう一つは、あくまでスノーボードはスノーボードとしてアイデンティティを守ることや。「おいらはスキーなんかじゃなくてもいい、誰がなんといおうとスノーボードなんだ」というスタンスである。頑固なアイデンティティと言えば、自らのアイデンティティを「風船で太平洋横断する事」として、大空に消えた“風船おじさん”(注5)や、中川財閥の御曹司でありながら一警察官としてのアイデンティティを守る「こち亀」の中川巡査あたりがお手本となるだろう。

ところで小沢一郎代議士がまた自民党と手を組むらしい。どうやら政界にはアイデンティティという言葉は無いようである。政界のようにアイデンティティ・クライシスになる前にどちらにしろスノーボードはガッーンと白黒つけるべきやと思う。

注1
戦場という荒っぽいシチュエーションに看護婦の制服はそそられる。制服を着ると言うことは、個性を消すと言う意味合いがある。つまり着ている人の人格を無視して「団体一員」として扱う意識が生まれるのだ。普通の人でも徴兵されて戦争に行くと平気で人を殺せたり、真面目な人が制服姿のイメクラ嬢に顔射できちゃうのも、相手を人として見る意識が希薄になるためだ。

注2
本来はオリンピック競技の正式種目となるためには、スポーツとして十分に認知されている必用がある。公式ではないらしいが、目安として競技団体が設立されて7年以上などという選考項目もあると言われる。したがってスノーボードをスキーとは違うスポーツと定義されれば正式種目にはならなかった可能性が高い。

注3
他にも、「お前の本当のお父さんは、うちで飼ってる犬のタローだよ」とか、「今まで男として育てたけど、実はあなたはクリトリスの大きな女なのよ」もインパクトがありそう

注4
ダニエルキース著の有名な精神病理学ノンフィクション小説。ビリーは性格の異なる24人の人格を併せ持つ多重人格の障害者。一人エッチどころか24人で×××もできる?

注5
6年前、たくさん風船を付けた気球でアメリカに行こうとした「風船おじさん」。実は生存説もある。風船おじさんが飛び立った風船気球は実はテスト用のもので、風船の数も少なく、おじさん自身もそれでアメリカまで行けないことはわかっていたらしい。おじさんは琵琶湖でテスト中に急にアメリカに行くと友人に告げ、そのまま飛び立って三陸沖で消息を絶った。あくまで噂だが、当時かなり借金のあったおじさんが踏み倒すために狂言をうったとも囁かれている。

GTM(SNOWing誌99'02月号)掲載