(朝日新聞より)
南安曇郡安曇村で発生した雪崩事故は6日昼過ぎには、白骨温泉に避難していた観光客ら全員が無事に下山した。
雪で寸断された道が復旧すると、観光客らは、恐る恐る、雪崩の巣の前を通り過ぎた。
乗鞍高原に入ると、携帯電話で家族や知人に連絡を入れていた。


雪崩から一夜明けた現場では除雪作業が行われていた=6日午前9時10分、長野県安曇村で、本社ヘリから。

村では6日午前7時から計4台の除雪車で林道を覆う雪を取り除き、1車線分の道を確保した。

県警は豊科署員ら70人態勢で、トンネル内と路上の車10台を移動させ、再点検。
午前11時40分、除雪が終わると有馬佳明村長が安全宣言を出した。
村職員15人が現場で警戒する中で、2〜3台ごとに乗鞍高原方面へと向かった。

白骨温泉には避難した人も含め、温泉客254人が滞在。
午後1時半までに、旅館従業員なども含め、車70台計286人が無事、下山した。

午後5時ごろ、村対策本部は会見を開き、通行規制のマニュアルを策定する方針を示した。
7日には信州大農学部の新田隆三教授らが訪れ、積雪量と雪崩の発生について調査する。

村では、▽8日から林道を一般車両も通行させるが、夜間(午後6時〜午前6時)通行止めにする、
▽トンネルと料金所に1人ずつ見張りをつける、などの対応策を発表した。


雪崩現場が開通し、白骨温泉で一夜を過ごした観光客の車が次々と下山した=6日正午すぎ、長野県安曇村で。

■雪の中2時間「真っ暗」 事故の様子、避難者語る

静岡県焼津市の田宮八千代さん(46)と長女の優希さん(16)は、
凍傷などの治療で運ばれた東筑摩郡波田町の病院で、事故の様子を語った。

田宮さんらは5日正午すぎ、蛭窪(ひるくぼ)トンネルを出て、車を停止中に巻き込まれた。
最初に発生した雪崩の様子を見るため、優希さんと父親の克己さん(48)は車外に出ていた。
ふわっとした雪混じりの風がフロントガラスに当たったと思った瞬間、「ドドーン」という音とともに雪崩が起きた。
2人は雪の中に生き埋めとなった。
車内の八千代さんは助手席側から脱出した。

救出されたのは約2時間後。
優希さんは「真っ暗で、体が横になっていた。全身の感覚は鈍く、手の先がじんじんするのが分かった」。
周囲から「おーい」という捜索の声が聞こえた。すぐ近くに克己さんがいるのも分かり、声を掛け合った。

今回の旅行は、姉夫婦らと車2台に分乗して訪れた。
すぐ後ろを走っていた姉らの車は完全に雪に埋まった。
捜索を助けたのは携帯電話だった。

姉が車内から「私たちは大丈夫。雪の上にスカーフを出すから見つけてほしい」と伝えた上、
「車の近くでうなり声が聞こえる。克己さんの声では」と手がかりを教えてくれた。

「昨日まで事故は夢ではないかと思っていた」。八千代さんはほっとした表情を見せた。


■「やっと」安堵の表情 避難者

避難者は、白船グランドホテル、旅館「泡の湯」などに分かれて5日夜を過ごした。
6日朝になると、朝食を取りながら携帯電話で友人らに雪崩の様子や救出状況などを話す姿が見られた。

泡の湯に避難した愛知県碧南市、自営業小島隆司さん(40)は6日午前11時45分ごろ、旅館が用意したワゴンで下山。
「やっと帰れます」と安どの表情を浮かべた。

妻と子ども3人で温泉に1泊し、5日は車で帰宅途中だった。
トンネルを出たところで雪崩に巻き込まれた。
約5時間後、救助の人の指示で車を出て、トンネルまで約200メートル歩いて戻った。
抱いていた1歳の長女が「寒い」とむずかった。

東京都世田谷区の会社社長山田創さん(46)は5日午前、家族5人で出発。
トンネルを出て100メートル付近で、車のボンネットが雪に埋まった。
家族を車から連れ出してトンネルに戻り、中に止まっていた車に乗せてもらった。

「雪の中に人が埋まったらしい」。騒ぎ声が聞こえ、山田さんも助けに出た。
40〜50人が手で雪をかき出すと、30分ほどで男性が見つかり、さらに男女2人が助け出された。


■車の振動でも引き起こす可能性 雪崩発生に専門家ら

春先でもないこの時期になぜ大規模な雪崩が発生したのか。
地元の雪事情に詳しい人らは、雪崩の引き金となるものへの注意を呼びかける。
雪質の変化を指摘する声もある。

乗鞍高原でアウトドアスクールを主宰する米国人のジャンカー・ダニエルさん(40)は、
雪崩に遭わないようにするためのルートの見分け方などを習い、昨年カナダで資格を取得、スキーヤーらに講習を開いている。

ジャンカーさんは「雪崩の発生には、雪の量と風、引き金となるものが何だったのかを調べなければいけない」と指摘する。
引き金となるものとして「笹、凍結した雪、振動」を挙げ、「斜面には笹が生えており、滑りやすい笹の上の雪が雪崩になったのでは。
凍結した斜面の雪の上に降った新雪、車の振動でも雪崩を引き起こす可能性がある」と話す。
「雪崩が起きる確率を判断する人を養成することが肝心だ。危ないと判断したら、通行止めにすべきだ」

村の上松正文収入役は「雪崩の起きた場所は、何回も通行止めにしている個所。
気象状況のほかにも現地で確認はしているが、通行止めにするかどうかの判断が難しい。
雪崩が起こりうる個所に、雪崩止めを増やすことが必要」と話す。

乗鞍高原でペンションを経営する福島立実さん(54)は「乗鞍高原のスキー場開きで、今まで雪崩の発生していない場所で初めて雪崩を見た。
こんなことは初めて。昔は粉状で雪が握れなかったが、今は湿った雪となった。
地球温暖化の影響で雪質が変化したことも原因では」と話す。


■問い合わせ殺到 対応に大わらわ 白骨温泉

白骨温泉にある11軒の旅館には6日朝から問い合わせの電話が相次いだ。
ほとんどの旅館で土、日曜は半年先まで予約で一杯だという。
旅館側は「雪崩の処理は終わり、村長が安全宣言を出しております」と対応に大わらわだった。

同温泉の収容客は約千人。
安曇村観光商工課の統計によると、84年12月〜85年3月の冬季の温泉客は延べ15300人。
17年後の01年12月〜02年3月は約5倍の延べ74400人と増えた。
春〜秋のにぎわいと匹敵するほど冬場の温泉客が増えた。