抑圧的で「短気な」政権、核開発を行う国。こう聞いて北朝鮮にスキーに行きたいと思う人はまずいないだろう。しかし、この国の高級スキーリゾート地では、たとえ敵同士が顔を合わせても普通に楽しい数日間を過ごせる。それに、見えなかったものが見えてくる。こうなると、それは良いことではないか?

実は、北朝鮮のスキー場にはそれほど期待はしていなかった。だが、平壌市内と周辺のパッケージツアーの一環オプションとして、記者は他の3人の参加者と行ってみることになった。
直前には、別のツアーのオーストラリア人観光客が、キリスト教厳禁のこの国でキリスト教関係のパンフレットを配っていたとして拘束されていた。また記者のツアーの一人も、滞在期間を延ばすためビザを改ざんしたといわれのない疑いをかけられた。

記者自身は観光ビザで入国していた。最近では、社会や政治関連の調査報道より旅行記事を書くことが多いので、それで問題ないと北朝鮮の旅行業者に言われていたからだ。それでも、口を慎み、銅像の前で頭を下げ、指導者たちがいかに国民を愛していたかという話を感心した顔で聞かなければならなかった。この後間もなく21万2千語に及ぶ国連の人権報告書が発表され、その「愛」がいかに暴力的なものになりうるかが細部にわたって生々しく描き出された。

それで今度は、スキーに興じられるのだろうか?平壌から東へ175キロ、海沿いの元山市に近い馬息嶺(Masik)スキーリゾートは、元旦に正式オープンした。開場式には故・金正日(キムジョンイル)総書記の末息子で後継者の金正恩(キムジョンウン)第1書記が出席し、黒い毛皮の帽子をかぶりってリフトで6番スロープの頂上に行き、肝いりのこのスキー場を「完全無欠完璧だ」と褒めた。

奇跡

朝鮮人民軍の「兵士兼建設作業員」が大勢で、海抜1362メートルの山のカバの木ので覆われた斜面を切り開き、11本のコースを造成した。ゲレンデの下には、ホテルが2軒。部屋数は120室でプール、カラオケバーがあり、ゼンマイの漬け物やゴマをまぶしたサーモンやジューシーなビーフを出す感じの良いレストランもある。

 北朝鮮には何百万人という人が栄養不足で、電気も通っていない家で暮らしている。だがそんなことはお構いなしに、この「社会主義が生んだ建築の奇跡」はたった1年で完成した。が、大きな疑問は残る。そもそもなぜ造ったのかということだ。

 このスキー場は本当にエリート専用に建てられたのか?全ては体制強化のための手の込んだ計画なのだろうか?だが、いったいどこの観光客が行こうと思うのだろうか?

ところがである。スキー場が視界に入るや、記者はわくわくしてきたのだ。どんなに固い心でもほぐしてしまうものがあるとすれば、それは人類共通の「遊びたい」という欲望だ。

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