あどけない表情から想像できない平野歩夢のド派手なジャンプに注目すべし。photo by AFLOソチ冬季五輪の開幕が目前に迫る中、ここへきてスノーボード・ハーフパイプの平野歩夢(あゆむ)への注目度が飛躍的に高まっている。

しかし、雪上競技の史上最年少記録となる15歳70日で五輪に出場するスーパー中学生――と言われても、スノーボードの競技シーンをテレビで目にする機会が少ない日本では、彼がどういう経歴を持ち、どういう滑りをする選手なのか、その人物像に正直ピンとこない人も多いはず。

たいていの人は、「その年齢で五輪に出るなんてすごい」という印象程度だろう。そこでここでは、平野歩夢というスノーボーダーの「すごさ」を、様々な角度からひも解いていきたい。
平野の出身は、新潟県村上市。地元でスケートパークを営む父のもと、4歳で兄とともにスノーボードを始めた。物心がついたころからスケートボードとスノーボードが身近にあり、日課のように反復練習でスキルを磨いてきた平野少年は、小学4年生のときに早くもアメリカのスノーボードメーカー『バートン』とスポンサー契約を結ぶ。

トリノとバンクーバーの2大会連続で五輪金メダルを獲得しているショーン・ホワイト(アメリカ・27歳)や、ハーフパイプ世界選手権3連覇を成し遂げた「生きる伝説」ことテリエ・ハーコンセン(ノルウェー・39歳)ら、世界の名だたるライダーたちをスポンサードするバートンは、サッカー界に例えるならナイキでありアディダスだ。そんなビッグスポンサーが10歳の少年と契約した、という事実だけでも、まずは彼の才能が幼少期からいかに突出していたかがわかる。

その後、平野は国内のジュニア大会で優勝を重ね、2011年と2012年のUSオープン・ジュニアジャムで連覇するなど着実に成長を遂げていき、そしてちょうど1年前の2013年1月、そんな彼の存在を一躍、世界のトップシーンに知らしめる出来事が起こる。当時14歳にして、エクストリームスポーツの世界最高峰、アメリカの「Winter X GAMES」のスーパーパイプで2位となり、同大会の史上最年少メダリストに輝いたのである。

優勝したのは、あのショーン・ホワイト。アメリカ人のハートを鷲づかみにするには、十分すぎるインパクトだった。「僕が初めてX GAMESに出たときは、ひざがガクガク震えた。今夜の平野のパフォーマンスは信じられない。ここから数年、彼が活躍するのは間違いない」。そう驚きを表現したショーンの言葉どおり、平野はその後もヨーロピアンオープン優勝、そしてUSオープン2位と、ビッグマッチで快進撃を続けた。

さて、ここで彼が主戦場としているハーフパイプについて、あらためて触れておこう。1998年の長野五輪から正式種目となったスノーボードのフリースタイル競技のひとつで、大まかに説明すると、全長120〜130メートル、深さ3〜5メートルほど(大会によって異なる)の半円筒状コースを振り子のように往復しながら、ジャンプやトリックを5〜6回繰り出し、技の難易度や回転数、ジャンプの高さなどを競う採点競技だ。

前述のとおり、五輪はアメリカのショーン・ホワイトが2連覇中で、その絶対王者の牙城を、誰が、いかにして崩すのか、というところがソチ五輪を楽しむ上でのポイントのひとつとなっている。

しかしながら、最高難易度の回転系の大技をバシバシとルーティーンに加えてくる海外ライダーたちと比べ、平野のライディングには少々、質の違う魅力がある。もちろん、彼らにひけをとらないダイナミックな大技は持っているが、それを凌駕して余りある圧倒的なエアの高さ、そして着地も含めたパイプ内での完成度の高い滑走が世界で評価されている。

特に、平野のジャンプは圧巻だ。まるでパイプとボードがくっついているかのようなスムースな滑りから一直線にテイクオフされるジャンプは、惚れ惚れするほど美しく、それでいてスノーボード本来の魅力である「浮遊感」、「優雅さ」に満ちている。ソチ五輪は、日本全国にそのライディングを披露する絶好の機会になるだろう。

もしかしたら、平野歩夢の活躍いかんでは、日本のスノーボードをとりまく環境、さらに言えば、スケートボードなども含めたエクストリームスポーツ全般に対する観念が劇的に変化する可能性すらある。誤解を承知で言うなら、日本はいわゆる「横ノリ」スポーツを、「競技」として伝えることに消極的なお国柄だ。代表的な例として、前出の「X GAMES」が挙げられる。

ウィンタースポーツの多くが、FIS(国際スキー連盟)主催のワールドカップを五輪と並ぶ最高峰の大会と位置づけしているのに対し、スノーボードのフリースタイル各競技は、アメリカのスポーツ専門チャンネルESPNが手がける「X GAMES」のほうを重要視し、内容も格段にハイレベルだ。その現状はたしかに他のウィンタースポーツと比べて異質であるし、選手の国際的な立ち位置もイマイチわかりにくい。

しかし、そんなマイナス面を考慮しても、世界中のキッズたちを熱狂させているこの大会が、日本ではNHK BSでたまに放送されるだけで、ほとんどその詳細が伝えられないのは実に寂しい。そんなスノーボードに対するメディアの消極性に、平野歩夢なら一石を投じることができるかもしれない。そう期待を寄せるスノーボード好きは、筆者だけではないはずだ。

1998年、ハーフパイプ王者だったテリエ・ハーコンセンがボイコット(※)するなど問題の多かった長野五輪時に比べ、ショーン・ホワイトというスーパースターが本気でメダルを獲りにいったことで、五輪でのスノーボード競技のプライオリティは確実に高まってきている。X GAMESの常連ライダーたちも、今では五輪のメダルを目指して凌ぎを削るようになった。

そんな中、平野はソチ五輪の目標について、こうはっきりと公言する。「ショーンを倒して、優勝したい」。技術もさることながら、大舞台になればなるほど恐るべき集中力で最高の滑りを見せるのが、「絶対王者」ショーン・ホワイトのすごいところ。五輪でそんな彼の上をいくことは、至難の業だ。

しかしここ一番の勝負強さは、平野も負けてはいない。ショーンでさえ、「ひざがガクガクと震えた」というX GAMES初出場で準優勝を果たしているのだから。身長160センチの小さな体に、底知れないポテンシャルと自信、そして度胸の良さを備えた15歳――。現地2月11日、最高の舞台で最強の壁に挑む平野歩夢のチャレンジを、じっくり見届けたい。

※IOC(国際オリンピック委員会)が長野五輪への出場選手選定を、ISF(国際スノーボード連盟)ではなく、FIS(国際スキー連盟)に委託したことに抗議するためボイコットした。

(webスポルティーバ)



[公式] 平野歩夢 THE STORY OF AYUMU HIRANO