「雪夏祭」の目玉は真夏のスノーボード大会だ=平成23年8月7日(沼田町商工会提供)(写真:産経新聞)この冬、北海道も各地で大雪に見舞われたが、北空知(きたそらち)の沼田町(ぬまたちょう)は以前から雪との共生をまちづくりの柱の一つに据えている。

町内には雪冷房を利用した米の貯蔵施設があるほか、異業種の若者による「ゆきものがかり」なるグループも組織され、雪を活用したさまざまな企画を提案してきた。ユニークな取り組みは映画の題材にもなるほどだが、人口わずか3600人の小さな町の本当の魅力は、雪ではなく人だという。

その日も沼田町は、朝から雪がしんしんと降り続いていた。町の玄関口、石狩沼田駅に通じるJR留萌(るもい)線は、いつ止まってもおかしくないほど雪の塊に埋もれるようにして走っていた。

2月15日、この町を舞台にした映画「ユキモノガタリ」(田川貴一監督)のクランクイン記者会見が沼田町役場で開かれた。吉本興業が沖縄国際映画祭で上映するために昨年から取り組んでいる地域発信型映画の一本で、実際に沼田町に存在する若者グループ「ゆきものがかり」を題材に、町職員に採用されて移住してきた女の子が、地域の人たちとふれあう中で自分の居場所を見つけていくという作品だ。主役の女の子を森カンナが演じるほか、お笑いコンビ、ペナルティのワッキーこと脇田寧人(やすひと)や、沼田町出身の2人組、ピグマリオンの津川宗尚と下山敏広らが出演する。

記者会見で「何もない町です」と自嘲気味にふるさとを紹介したピグマリオンの2人は、その魅力について聞かれると、「でも人はすばらしい。知らない人とでも会釈をするし」と下山が言えば、「みなさんは隣の家から醤油(しょうゆ)を借りたことありますか? 家には鍵もかけないし」と津川。「とにかく人のつながりの強さを感じますね」と2人は胸を張って答えた。

その人のつながりを象徴するような存在が「ゆきものがかり」だ。人気の音楽ユニットをもじったようなネーミングだが、発足したのは平成21年。もともと沼田町では雪と共生するまちづくりを目指しており、8年には1500トンの雪で米を貯蔵する「スノークールライスファクトリー」を完成、収穫翌年の夏になっても新米並みのおいしさを保つ「雪中米」を出荷している。そんな天然の資源を利用して「若い人を中心に何か新しいイベントを考えてほしい」と沼田町商工会から依頼されたのが、「ゆきものがかり」誕生のきっかけだった。

「最初は商工会の青年部や役場の青年女性部職員ら平均27〜28歳の9人が集まった。雪を利用したイベントをすることと、雪中米を使った食品の開発が2本の柱で、雪中米に関しては、レシピを募集して丼コンテストを開こうとしたのですが、応募してきたのは2通だけ。お米を使った料理というのは簡単なようで難しいんです」と、「ゆきものがかり」の代表で町内で食堂を経営する山田昌希さん(45)は苦笑する。

結局、丼コンテストはあきらめ、町内の飲食店6店舗の協力で「雪中米丼まつり」を3日間開催。各店舗オリジナルの丼を注文してスタンプを集めると、雪中米がプレゼントされるという仕掛けで、かなりの数の客が訪れたという。

一方、雪を利用したイベントとしては、22年の8月に第1回を開催した「雪夏祭(せっかさい)」がある。真夏にスノーボードの大会を開こうというむちゃな企画で、山田さんが商工会の幹部に打診したところ、最初はものすごいけんまくで反対された。

「それまでもためていた雪で土俵を設けて相撲大会を開いたり、雪だるまを作ったりしたことはあったのですが、雪山を作るというのはどれだけ雪が必要なのか見当もつかない。隣町にスノーボードのプロが住んでいて、彼らも巻き込んでやれば若者も食いついてくる、と何とか説得したのですが、結果的に10トントラック75台分の雪が必要でしたね」と山田さん。

沼田町では20年に運用を開始した雪山センターに5000トンの雪を貯蔵しており、そこから3〜4キロ離れた石狩沼田駅前の広場までダンプカーで何度も往復したという。その反省を踏まえ、昨年は会場を雪山センター近くに変更。日程も2日間に延ばして、スノーボードのほかにスキーと雪合戦も実施、カフェを開設するなどして700人以上の入場者を集めた。

「町に刺激を与えるという効果はあったと思う。ただ一番大事なのは人と人を結びつけること。『ゆきものがかり』は、各団体の枠を超えて誰でもウエルカムなんです。今は44人が登録していて、それも幅広いメンバーが入っている。人の輪を広げるという部分で、十分に成功していると思っています」と山田さんは語る。

そんな活動に着目したのが吉本興業で、「ゆきものがかり」を題材に地域発信型映画を作ることが決定。田川監督が沼田町に足を運んでメンバーと話をする中で興味を持ったのが、昨年発売されたお菓子「雪んこ焼き」の誕生秘話だった。メンバーの女性が雪中米の米粉(こめこ)を使って開発したもので、彼女は最初、この町に来てなかなかなじめなかったが、「ゆきものがかり」に入ってお菓子を開発する中で仲間に支えられ、今ではこの町に来てよかったと思っているということだった。

「恐らくみんなは支えようというんじゃなくて、ただ自然にしているだけだったと思う。沼田町ってどんなところなのか聞くと、みんな『何もない』と口をそろえて言う。でも決してネガティブな意味ではなく、前向きに自信満々に『何もない』と言うんです。とにかく何かあるだろうと探して気がついたのは、沼田町の人だった。3600人しかいない小さな町だけど、3600人の家族みたいな印象がある。年配の人も若い人たちが次は何をやるのか楽しみにしているし、何もないからこそ人のつながりが生まれてきたんじゃないか、と感じたんです」と田川監督は言う。

映画「ユキモノガタリ」は、3月24日から始まる第4回沖縄国際映画祭に出品されるほか、沼田町内をはじめ道内での上映も予定されている。田川監督は「北海道に沼田町というこんないいところがあるんだよ、ということを知ってもらえれば」と訴える。

自分たちの活動が映画になることについて、「思いを拾っていただいて、すごくありがたい。みんなで手を取り合っている町だということがアピールできるかなと思う」と期待を寄せる山田さんは、この思いを次の世代につなげていきたいと力を込める。

「この町に働き口がないのは事実だし、これからも人口は減り続けるんだろうなと思う。でも僕は子供が4人いるんだけど、子供たちには夢を与えないといけない。こうやって映画にもなるということは、僕らの活動が認められたということ。3600人の町でも、がんばればちゃんと見てくれるんですよ。子供たちのためにも、大人ががんばっている姿を見せなきゃいけないと思っています」
(産経新聞)