バンクーバーオリンピックのスノーボード・ハーフパイプで期待されていた日本選手3人、メダルには至らず残念な結果に終わりました。とはいえ、國母和宏選手はあのスタイルで話題になり、ある意味注目を浴びました。とても個性的な彼のスタイルをパーソナルデザインの視点から見てみたいと思います。

日本選抜選手がバンクーバーへ向かう途中、彼の個性的な姿がメディアで放映されました。ドレッドヘアに鼻ピアス。無精ひげともとれるスタイルに、規定とされた日本選手の制服であるジャケット&パンツスタイルを着崩し、ストリートファッション風に着こなす姿。彼のスタイルそれだけを見ていれば、「首の上のデザイン(髪型、アクセサリー)に合わせたんだ」と単純に思います。

あの制服そのものを見れば、決してフォーマルではありません。カジュアルです。ただし、ジャケットとパンツ、シャツとネクタイというトラディッショナルなものではあります。きちんと着るのか、多少着崩してもいいのかという判断は難しいところです。

しかし、どちらにしても、國母選手があの髪型、ひげスタイルのままで、あの与えられた制服をきちんとステキに着こなすのは、プロのスタイリストだって難しいのではないかと思います。

彼自身もあの制服を与えられ、どう着こなすか困ったはずです。きちんと着るとあの髪型には合いません。鏡の前で何度も何度もシャツをどうするか、ネクタイをどうしたら最も自分らしく格好よく着こなせるか工夫している様子が目に浮かびます。独特の感性をもつ若者であれば当然です。

結果、あの首から上のスタイルに最もふさわしく、トータルでコーディネートできていると思えた着こなしがあの腰穿きスタイルだったのだと思います。

その結果、それを見た感性の違う大人たちからお叱りを受けたわけです。

國母選手からすれば、「あ〜、またセンスのない古臭い大人たちが、わけの分からないことを言ってる!」という心理が働いてか、「反省してま〜す!」という答えになったのでしょう。それで、さらに批難の声に拍車がかかったわけです。

そこで、パーソナルデザインの視点からあのスタイルを評価してみましょう。

●パーソナルデザインの視点から見ると

彼のもともとの顔立ちは、目の位置が低い無邪気な子供顔、目元には野性的な印象があり、ひげもそのワイルドさを増長しています。全体的には「独特の感性を持ち、自分の目指す世界を突き進む少年」といった印象です。

そして、彼が身を置く世界もスノーボードという新しい世界。ストリートスポーツという世界かもしれません。決して大人(熟年)を中心とした保守的な世界ではありません。だからこそ、ドレッドヘアも合うし、鼻ピアスも合っています。職業と、顔立ち、現在の髪型から見れば、あの着こなしもトータルコーディネートされているといえます。

しかし、大人たちは、オリンピックという公の場で“乱れた(これも受け取り方によりますが……)”服装であったことに「遺憾である」と言っているわけです。

ここで、ビジネスの場に目を向けましょう。

商社などの海外出張が多いビジネスマン。初めての海外出張前にグローバルスタンダードの着こなし研修を実施する大手企業が最近やっと出てきました。海外出張でなくても、部長になる時にファッションスタイル研修を行う企業も出てきています。

IBMなどは、かなり以前から役員になるとファッション研修がありましたが、そんな企業は日本ではまれでしょう。日本の高度経済成長時代から現在に至るまで、ビジネスマナー研修はあったものの、ファッションスタイルなどは個人任せ。

結果、海外出張の際、食事の席にジャケットをはおっていなかったり、表彰される場面でジャケットのボタンを止めていなかったり、靴がひもなしのゾウリムシスタイルだったり、スーツに白いコットン靴下を合わせたり、袖が長すぎたり、紺色のスーツに赤茶色の靴とベルトを合わせたり……。今回の國母選手のように公に批判されなくても、「くすくす」と商談相手からほくそ笑まれている場面も多いはずなのです。

残念ながら、日本における洋服の歴史はたった100年。小さいころから公の場での洋服の着こなしを親から教わる欧米と違い、日本はそれがまったくと言っていいほどありません。親自身が分かってないから教育なんて無理な話です。

結果、國母選手を批判している大人たちの中にも、今回の國母選手のような若者たちの中にも、グローバルな環境の中で、恥をかき、損をしてしまうことが多々あるわけです。

●事前研修が必要

国際化が当たり前の時代、オリンピックのようなグローバルかつ公のメディアが入る場に選手を送り込むに当たり、ファッションスタイルについて何も事前研修がないこと自体を運営側が反省するべきだと思うのです。マナーよりも、見た目の方が、大きく一人歩きする可能性が高いからです。

なぜって?

それは、映像だからです。

最悪、そんなセミナーがなかったとしても、公の場に出る立場の人たち自身が下記のことを自ら実行することが大切です。

1.自分の外見印象を知る

2.自分の内面的な個性、能力を知る

3.自分の置かれている環境を知る

4.上記3点を考慮して、今現在の自分の見せ方を明確にする

5.見せ方のコンセプトが明確になった上で、髪型、洋服、振る舞いをトータルにデザイン(コーディネイト)する

これからの国際化の中で、自分自身が損をしないためにとても必要なことではないでしょうか。

今回の國母選手は、自分の職業や個性におけるパーソナルデザインはできていましたが、マクロの環境においてパーソナルデザインはできていなかった。そして、飛び抜けた個性を表現したスタイルだっただけに、批判を受けてしまった。しかし、そのおかげで何か得るものはあったのではないかと思うのです。

一方、まったく個性を表現せず、保守的で目立たないビジネスマン。普通であるから誰も何も言わないものの、グローバルスタンダードからすると不思議な着こなしのビジネスマン。陰では言われても、目の前では何も言われないから、ずっとそのスタイルを続けてしまう。結果、損する場面が延々と続くかもしれないのです。

保守的であればいいのではなく、國母選手のように個性を表現することも必要とされる時代。そして、その個性をTPOによって変幻自在に使い分けることが求められるグローバルな時代なのです。

日本選手団団長の橋本聖子氏が、國母選手の結果を受けて下記のようなことをコメントしてました。

「技術だけでなく、人間力を磨いてほしい」

「ファッションスタイルは人間力」なんて言うほど大層なものではない、と私は思います。ただ単に、TPOによる着こなしを学べばいいのです。後はTPOを踏まえた上で國母選手のように個性を表すこと。この2段構えで、得をすることが世の中にはたくさんあるのです。「たかが、ファッション。されど、ファッション」なのです。
(Business Media 誠)