「参りました。完敗です」と、優勝した伊藤静男さん(75)に藤沼平八郎さん(76)は悔しそうに頭を下げた。そして「来年は勝つからな」と顔をくしゃくしゃにして笑う。目標にされた伊藤さんは「もうやめようと思っていたのに、やめられないじゃない」と苦笑い。夕日で赤く染まった雪のないゲレンデに、おじいちゃんたちの笑い声が響き渡る。

ここは岐阜県郡上市の鷲ケ岳スキー場。「第27回全日本四十雀(しじゅうから)トライアルミーティング」の会場だ。その名の通り40歳以上なら誰でも参加でき、「年寄りと下手ほど偉い!」という、年長者を敬い初心者をいたわるバイクトライアル大会である。

各セクション(コース)は山あり谷あり。ゆっくりと慎重にブレーキとアクセルを駆使し、バランスをとりながら岩や切り株などの障害を足が着かないように乗り越える。

始まる前は「同窓会みたいで、ばか言って騒いでいるのが乗るより楽しい」と言っていたおじいちゃんライダーも、スタートした途端に目つきが変わる。失敗すれば舌を出して悔しがり、難しいセクションでは力が入って、手も足もブルブルと震える。「ミスなくクリアすると爽快(そうかい)でね」と見せる笑顔が、いたずらを成功させた小学生のようだった。

閉会式の傍らで杉本博さん(73)が「みんな自己満足のためにやってんねん。トライアルは一度やるとやみつきや」とにやりと笑う。いくつになっても、何かに熱中している姿は格好いい。
(毎日新聞)