【長野県】若者らでにぎわっていた白銀のゲレンデは、一瞬にして痛ましい事故現場へと姿を変えた。小谷村の栂池高原スキー場で今月3日に起きた雪崩事故。死亡した愛知大の学生2人が巻き込まれた場所は、立ち入り禁止のコースだった。「整備だと勝手に解釈した」と弁明した引率非常勤講師。一歩ルールを踏み外すと、容赦なく自然の猛威が襲いかかる。スキー場に潜む危険を浮き彫りにした。

雪崩事故が起きた林間コースは、すっかり普段通りの営業に戻った。スキー場側は事故後、雪崩発生の恐れがあると判断した場合には、コース入り口にネットを2重設置し、立ち入り禁止の看板に「雪崩の危険」と理由を示すよう見直した。

「(引率講師が言うように)勘違いしたというなら、それを防ぐためにできることはやらないと」。同スキー場索道事業者の白馬観光開発栂池営業所長の佐藤裕二さん(52)は言う。

林間コースは、夏場は大型バス1台が通れるほどの林道で、斜度が少ない初心者コース。「ゆっくり景色を楽しめた。雪崩の危険は感じなかった」。滑り降りてきたスキー客の感想だ。

しかし、事故現場は雪崩が起きやすくスキー場も警戒を強めている区域。現地を調査したアルプス雪崩研究所(白馬村)所長の若林隆三さん(68)=元信州大農学部教授=は「現場の斜面は木の少ない雪崩道。そこに『すり抜け雪崩』が起きた」と指摘する。

若林さんによると、事故当日降った雪は極めて軽く、低温と風があまりない条件下で結晶が結合しにくい状態だった。このため「砂時計の砂が落ちるようにサラサラとした、立ち木も雪崩防止柵もすり抜ける雪崩が起きた」とみる。小さな刺激で崩れ落ち、動きだしたら止まらないのが特徴だという。

雪崩の危険を抱えているスキー場は栂池高原に限ったことではない。白馬五竜スキー場(白馬村)の索道事業者エンレイ索道営業部次長の内川圭一さん(55)は「営業前にテストスキーで雪崩を人工的に起こすなど、雪崩に対しては徹底した管理をしている」と強調する。悩みの種は、スキー場内から立ち入り禁止のロープ越え、管理区域外のバックカントリーへと出ていくスキー客が後を絶たないことだ。

「ゴンドラリフトで上って下りる範囲は、やはりスキー場側に管理要素がある」と内川さん。“常習犯”に対して立ち退きを求める厳しい対処をするのも、「管理区域外にシュプールがあれば、それを追っていく初心者も出てくるかもしれない」との恐れがあるためだ。

今回の雪崩事故で、引率講師の軽率な行動はそしりを免れない。だが、県索道事業者協議会事務局の長野市観光課は「スキー場も、なぜ危険なのかしっかり周知し、スキー客に認識してもらう取り組みは必要」としている。

スキー場でスキー客に聞いたところ、「場内で雪崩が起きるなんて考えたことがない」との声が複数聞かれた。

急斜面のゲレンデを持つスキー場は、営業前のテストスキーなど、さまざまな対策を講じ、スキー客が安全に楽しめる環境を提供している。それらを無意識のうちに信頼しているからだろう。しかし、相手は自然。完ぺきな対策はないと、スキー場関係者は口をそろえる。

アルプス雪崩研究所の若林さんは「日本のスキー場は、危険情報を発信する取り組みが欧米に比べて遅れている」と指摘する。スキー客がゲレンデの情報を注視し、ルールを守らなければならないのはもちろんだが、スキー場側も、危険個所などをスキー客に認識してもらう努力が一層求められる。
(中日新聞)