日本列島は、全国的に高温と記録的な少雪の暖冬が続いている。気象庁も「ここまでの暖冬は予想以上」と驚く状況で、タンポポが平年より大幅に早く開花するなど「春の前倒し」も起きている。世界的にも高温・少雪による異常現象が目立つ。エルニーニョ現象が原因とみられる今回の暖冬の背景を探った。

■少雪は記録的
「数十年に一度の少雪。気温の高さも予想を超える」。気象庁気候情報課幹部はこう話す。今回の暖冬の特徴は「少雪」と「高温」。特に、少雪は記録的だ。

本州の日本海側を中心に、1月の降雪量は統計史上(61年以降)最少を記録。北陸地方では過去最少だった72年の平年比15%を大幅に下回り、同3%となった。2月に入り、一時的に西高東低の冬型の気圧配置が強まり、降雪もみられたが、日本海側でも累積降雪量は平年の1〜3割。東京都心では、いまだに初雪が観測されていない。

平均気温も、1月は全国11カ所で最高記録を更新。秋田市2.7度(平年比プラス2.8度)▽新潟市4.9度(同2.3度)▽神戸市7.5度(同1.8度)などとなった。名古屋市では平年より1カ月以上早い1月24日にタンポポの花が開き、神戸市では平年より22日早い1月31日にウメの開花が確認された。

こうした暖冬の背景として、同庁は(1)寒気の南下が弱い(2)エルニーニョ現象――を挙げる。

日本の寒暖は、北極圏で寒気の蓄積と放出を繰り返す「北極振動」と呼ばれる現象が影響する。一般的に、寒波は北極振動によって放出された寒気が南下して来ることを指すが、昨年12月以降は、蓄積の状態が続いている。このため、日本だけでなく、世界的に高い気温をもたらした。

さらに、太平洋中東部の海面水温が上昇するエルニーニョ現象が、大気の対流に影響を及ぼしている。冬には西高東低の気圧配置になり、西側の大陸からの寒気により気温が下がる日本列島。今回は、高気圧が日本の南側にできたため、これが暖気を持ち込み、高気温につながった。この暖気は、寒気の南下も妨げる作用もしている。

日本の南側に高気圧ができた理由は、次のようなものだ。エルニーニョ現象による海水温上昇で上昇気流ができ、その影響で北側に高気圧が発生。その高気圧が日本の東側の低気圧を例年より東側に移動させ、その影響で大陸の高気圧の一部が移動性になり、日本の南側に流れ出している。

同庁によると、1月下旬から寒気の放出が始まっているが、日本は暖気の押し上げが強いため、当面は寒気の南下が強まる見通しはないという。

■北極寒気放出なく、欧米高温の主因に
日本だけでなく、世界の平均気温(昨年12月、速報値)は1891年からの統計史上最高を記録し、平年より0.41度高かった。特に北米や欧州では高温となり、モスクワ1.2度(平年比プラス6.7度)▽ヘルシンキ3度(同6.5度)▽ニューヨーク7.4度(同4.2度)などを記録した。こちらはエルニーニョ現象よりも「北極振動」の方が主な原因とみられ、同課は「寒気の蓄積が2カ月ほども続くことはあまりない現象」と話す。

ニューヨークで1月6日に22.2度の最高気温を記録。1月の気温としては50年の記録に並び、ハワイとさほど変わらぬ「暑さ」となった。モスクワでは10月末並みの気温で、動物園のクマが1月まで冬眠せず、サハリンでは沿岸の氷上で釣りをしていた400人以上が氷が割れて漂流した。

欧州でも、雪不足のためフリースタイルスキーの世界選手権が1月から3月に延期されたほか、南仏では、1月に海水浴を楽しむ姿が報じられている。

東南アジアでは集中豪雨による被害が顕著。インドネシアの首都ジャカルタでは、1月末からの断続的な豪雨による大洪水で、多数の死者が出た。南半球では干ばつの被害が目立つ。豪州では100年ぶりの激しい干ばつで、羊や牛などの家畜が衰弱。各地で山火事が起きている。

■雪不足、農業打撃も
暖冬はさまざまな影響を与えている。
石油情報センターによると、灯油の店頭価格(消費税込み、全国平均)は昨年9月に18リットル1缶当たり1540円をつけた後に下落が続き、1月29日現在で1385円。暖冬が続けば1300円割れもありうる。石油元売り各社は「これ以上、在庫は抱えられない」とジェット燃料に加工して輸出するなど対策に追われている。家庭用の都市ガス販売量も、昨年12月の暖房用需要の落ち込みで、前年同月比6.5%減(日本ガス協会調べ)。1月も伸び悩んだ。

百貨店などの衣料品売り場では、コートなど冬物衣料の売れ行きが「前年比マイナス」(高島屋)の半面、春物の出足は例年にない早さ。ミレニアムリテイリング傘下の西武百貨店、そごう各店舗は、昨年より半月早い1月中旬から春物を本格展開し

「前年比15%の伸び」と好調だ。

観光地では、スキー場が雪不足に悩み、ワカサギの氷上穴釣りで知られる群馬県の榛名湖(標高1084メートル)は全面氷結に至らず、地元漁業協同組合は1月29日、今年の穴釣り中止を決定。解禁なしは初の事態といい、湖畔の商店主は「暖冬を恨むしかない」。

北陸地方などでは、雪解け水を農業用水に使うため、少雪による水不足を心配する声も出ている。また、サクランボなどは生育が早く「花芽が動き出した後に寒波が来ると、大打撃を受ける」などと生産農家は困惑している。

▽東京学芸大の高橋日出男助教授(気候学)の話 エルニーニョ現象が起きると、西高東低の冬型の気圧配置が弱まり、かつ崩れやすくなる傾向がある。12月以降の気圧配置には、確かにエルニーニョ現象の影響が見られる。日本の東側の低気圧は例年より東側に移動し、西側の高気圧は一部が移動性になって日本の南側へ流れ出している。ただし、海水温を見る限り、エルニーニョ現象そのものはそれほど強くないので、他の要因もあるのかもしれない。

現段階で、地球温暖化の影響と今年の暖冬とを直接関連づけるのは難しいが、温暖化が進めば全体的に気温が上昇傾向になるのは確実だ。また、気温の年々の変動幅が大きくなるので、極端な天候が現れる可能性も高まるだろう。
(毎日新聞)